トラサンペとは阿寒湖などに潜む、小さくて丸っこい、緑色で毛にまみれた妖怪です。ですが別に危険でアカン妖怪ではなく、全く無害な存在です。
昔々、阿寒湖にはベカンベ(菱)たちがひしめいていました。数を増やし、より多くひしめき合いたいと思った菱たちは、湖を管理するカムイに「繁殖していいっスか?」と直談判してみたところ、「あかん」と断られました。
菱が増えれば湖の景観が見苦しくなるうえ、食料や薬効として有用な菱を、アイヌたちがこぞって乱獲しに来くることで生態系がアカンなる可能性がある…そういった理由からでした。
もっともな意見ですね。的を得ています。いつの時代も正論というのは他人を殴るために使われがちなものです。
当然納得いかずにブチ切れた菱たちは、その辺に生えてた草を千切っては丸めて投げ、千切っては丸めて投げ、湖に不法投棄をするというアカン行為を決行しました。
菱たちの怒りがヒシヒシと伝わってきますね。
すると…なんということでしょう…! 丸まった草から生命の息吹をヒシヒシと感じるではありませんか。こうしてこの地に、トラサンペという妖怪が爆誕したわけであります。
トラサンペたちは阿寒湖やその他色々な湖で今もなおヒッソリと暮らしております。
国の指定する、特別で天然な記念のブツとして…それはもうマリマリモリモリと…(近年、丸くて緑色で毛にまみれた、股間がモッコリ膨張しているアカン姿の人型生物が目撃されていますが、トラサンペとの関連性は不明です)。
ペンタチ・コロ・オヤシとは「松明をかざすお化け」を意味する樺太のアイヌに伝わる妖怪です。松明を手に持ち深夜徘徊…練り歩きを行い、道行く人々に怪異を成すといいます。
ある夜の事、ペンタチコロオヤシが現れ松明の炎が雪にピカピカと反射して、真夜中だというのにまるで真昼の様に明るくなったといいます。そんなに光るものなんでしょうか。
松明が高性能なのかペンタチコロオヤシの妖力が凄まじいのか。ワット数すごそうですね。
そんでもってその話を聞いた勇猛な村長さんが「よし、ワシが正体を暴いてやろう」と息巻いたのか、刀を持って夜道へと繰り出しました。すでに殺る気がマンマンのようです。
しばらくすると村長さんの背後から何者かが近づいてきます。まさかこれから殺されるとは露も思わず、ノコノコと現れたペンタチコロオヤシです。
はたして、村長さんは手に持った刀を抜刀し、躊躇なくペンタチコロオヤシをしめやかに刺殺! 「コケーッ!」…そんな断末魔をあげたかどうかは定かではありませんが、哀れにもペンタチコロオヤシは抹殺されてしまいました。
しかし村長さんも、妖怪が事切れたと同時に気を失ってしまったのです。
それからしばらくのち、普通に息を吹き返した村長さんは、事の顛末を村に報告しに帰りました。翌朝…村人たちが現場に駆け付けると、そこにはワタリガラスの死体がありました。
ペンタチコロオヤシの正体は性格の悪いワタリガラスだったのです。
昔話における、動物が変化した系妖怪の斬殺され率は非常に高いですね。まあ今回は刺殺ですが。イタズラなんかするもんじゃないですね。
オッケルイペとは「放屁する化け物」を意味する、その名の通り屁こきに特化した、まさに屁をこく事において右に出る者はいないであろう、オナラ界隈を代表する横綱・ファンタジスタ・金メダリストです。
一人で家にいる人間が主なターゲットになりやすいです。突然「ポァ」という異音がしたと思ったら、猛烈な臭さの屁をこれでもかとコきまくります。
家中の至る所でコきまくり、ヴァルサンのごとく隅々まで効くので逃げ場はどこにもありません。充満した悪臭に苦しめられ悶絶することになります。
まさに地獄絵図といっていいでしょう。これが「ポァ」じゃなくて「ビチィ」とかだったらもっとヤバかった。
しかし対処法はあります。こちらも負けじと屁をコくことです。臭気の有無に限らず、恐れをなして退散していきます。
「屁の妖怪なのに屁に弱いの?」と疑問に思うかもしれません。ですが皆さんも自分の屁は気にならないけど、他人の屁は気になりますよね。それと同じことです。フグが自分の毒で死ぬことはないのです。
ですが世の中、自由自在に屁をこく能力者も稀にいるにはいますが、普通はそう都合よく屁など出せないものです。
そんなときは口で「ポァ」と放屁の音を再現するだけでも効果はあります。省エネマですね。
その正体はとりあえず殴ってみたところキツネだったという話もありますが、水木しげる先生のイラストに描かれるようなガス状生命体という説も中々面白いと思います。引火しそうで怖いですね。
皆さんも屁をコくときは火元にご注意ください。
オハチスエとは「空き家の番人」という意味の、蛮族的アトモスフィアをバシバシと感じる極悪で凶暴なクソジジイです。
古き時代のアイヌは、暖かい季節には海辺のコタン(集落)ですごし、冬が来る前には山のコタンへ移るという生活をしていました。
移住している間、片方のコタンは空き家だらけです。そこを狙って無断で住み着く妖怪がこのオハチスエです。
魚の皮でできた衣を羽織った体中毛まみれのクソジジイで、手には意味不明な切れ味を持つ鋭い刀を携えていました。性格は邪悪としかいいようがなく、獣や家畜を斬殺し喰らい、人間を斬殺し衣服や食料を奪いました。どう見ても妖怪ですね。
また、応対した人間の仕草をマネる性質があるようです。オウム返し的な嫌がらせでしょうかね。性格の悪さも妖怪らしいですね。
ちなみに、このオハチスエが紹介されている書籍「えぞおばけ列伝」には「トイポクンオヤシ」と呼ばれるR18待ったなしの猥褻物陳列罪的アトモスフィアを感じる妖怪が紹介されていますので、皆さんも要チェックですよ。
モシリシンナイサムとは、意訳すると「異世界の魔物」っといった風になる不気味な正体不明の妖怪です。見た目は鹿だったり馬だったりと一定ではなく様々な動物に化けることができます。
その姿を目撃した(足跡を見ただけでもアウト)人間は例外なく不幸な一生を送るハメになるといいます。鹿を視界に捉えた次の瞬間にはどこにもいなくなっている…それはモシリシンナイサムのターゲットになったということを意味します。
瞬時に消滅するなら、本当に見たかどうかも曖昧になりますよね。そうやって不安を煽るのがこの妖怪の悪辣さなのかもしれません。
伝承によれば、創造神が火を起こそうとして失敗した際に捨てられた火鑚臼がモシリシンナイサムになったと言われます。
本日のラスボスです。ホヤウカムイとは「蛇の神」を意味する、アイヌ伝承に伝わる強大な魔神です。サキソマエップ(夏に語らざる者)、ラプシヌプルクル(翅の生えた魔神)など複数の異名を持ちます。
姿はまさしく巨大な有翼の蛇のごとくであり、鼻先は鋭利に尖っており、木々をズタズタになぎ倒すと言われています。もはや怪獣ですね。
変温動物の蛇らしく非常に寒がりで、冬場はとてもしんどいようです。巫女に憑りつき託宣を授けることがよくあるのですが、その際しきり「火を焚け」と巫女の口を借りて訴えてきます。
オッケルイペの屁が可愛く見えるくらいの超☆悪☆臭の持ち主で、その猛烈な臭みによってホヤウカムイの周囲の草木は枯れ、海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶滅したかにみえます。
人間も例外ではなくホヤウカムイの臭みに触れたその瞬間、全ての体毛が抜け落ち、毛根は死滅し、皮膚は焼けただれ、粘膜という粘膜がグチャグチャで変な汁を垂れ流し、最悪即死してしまうでしょう。
このようにヘドラみたいなヤベぇ神様ですが、この手の神様はキチンと奉ることにより逆に毒や疫病から人間を守ってくれるというのも、アニミズム的なセオリーの一つです。
疫病を撒き散らす神も、ホヤウカムイの臭さに裸足で逃げ出すと言います。くさやは臭くても味は美味いに通ずるところがありますね。
いかがだったでしょうか。今回紹介した妖怪たちはホンの一部でしかありません。冒頭にも書いたように万物に精霊は宿るものです。
いまだ知られざるカムイやオヤシが北海道を練り歩いていることでしょう。
北海道は寒すぎて人が住むには厳しい土地です。ヒグマやエキノコックスだっています。それでもアイヌの人々の生活の知恵、カムイ…大自然との付き合い方は、現代人の我々にとっても大いなる参考となるはずです。
この記事が北海道の事、アイヌの事を知るキッカケになるならばそれ幸いでございます。そして某黄金カムイの漫画を読みましょう。とっても面白いですから。
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