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万葉集で覚えておきたいオススメの和歌3首

万葉集のオススメの和歌

 

万葉集は、7〜8世紀頃に編纂された日本最古の和歌集です。天皇から田舎人まであらゆる階層の人の歌が、全20巻、およそ4500首も載せられています。

 

歌われる題材も、自然、恋、死など実に多彩です。

 

古代人の感性に驚かされたり、共感できたり…万葉集には様々な人との出会いが転がっています。

 

今回は、上代文学を学んでいた筆者が、オススメの和歌を三首紹介します。

 

 

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プロポーズは「君の名は?」

万葉集の最初は、伝説上の人物である雄略天皇が作ったとされる歌で始まります。

 

籠(こ)もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児(こ)  家告らせ 名告らさね そらみつ 大和の国は  おしなべて 我れこそ居(を)れ  しきなべて 我れこそいませ  我こそば 告らめ 家をも名をも (巻一、1)

 

 (籠も良い籠を持って、ヘラも良いヘラを持って、この岡で菜を摘んでいる乙女よ、身分と名前を明かしてください。大和の国は、すべて私が支配し、すみずみまで私が治めているのだ。私こそ告げよう、身分も名前も。)

 

天皇が菜摘みをする少女に名前を尋ねるという歌ですが、この歌、実は求婚の歌なのです。

 

古代日本には言霊(ことだま)信仰というものがあり、言葉には命が宿ると考えられていました。

 

そのため名前はとても大切で、本名を知られることは、相手に魂を所有されることを意味しました。特に女性は、本名を家族以外には教えませんでした。

 

その習慣は平安時代にも残っており、例えば紫式部や清少納言など、女性は社交の場では別名を用いていました。

 

よって古代は、名前を聞くことが求婚を意味し、本名を教えてもらえれば交際成立だったようです。

 

直接「I love you.」と言わないところが、日本人らしい感じがします。

 

しかし、むしろ名前を聞かれるほうが、所有したいという想いが直接感じられ、ドキッとする表現にも思えます。

あなたをブレスレットに閉じ込めたい

つづいて恋の歌を紹介しましょう。河辺宮人という者が、女性の死体を見て作った歌に、次のものがあります。

 

人言の 繁きこのころ 玉ならば 手に巻き持ちて 恋ひざらましを(巻三、436)

 

(世間の人たちが私たちの仲を噂している近頃は、もしもあなたが玉だったら、私の手に巻いて持っていて、会えない恋しさを味わうこともないのに。)

 

報われない恋に悩んだ女性の末路を想像して、この歌を作ったのでしょうか。許されない恋に対して叶わぬ願望を抱く、女性の切実な恋心が歌われています。

 

玉というのは、美しい石、つまり宝石のことを指します。古代にも、宝石をいくつも紐で通したアクセサリーがあったようです。

 

玉を手に巻くのですから、宝石でできたブレスレットをつけるということでしょう。

 

さて、「もし玉だったら」と仮定していますが、「恋人が玉であってほしい」という意味より、「恋人の魂を玉に閉じ込めておきたい」という意味だと私は思います。

 

古代人は、魂は身体を離れ、分割可能で、他のものに宿ると考えられていました。

 

例えば、正月に親族からお餅やお金をいただく、お年玉という習慣がありますよね。実はこのお年玉は「年魂」であり、その年の神様から魂を分けていただくという意味があるのです。

 

よって、魂が身体から離れたら死ぬというわけではなく、魂は分割でき、自身の身体以外に宿ることも可能だと考えていたのです。

 

また、恋も魂と深く関わりがある言葉だと考えられます。恋の語源は「魂乞い(たまごい)」で、相手の魂を招き寄せようとすることだ、という説があります。

 

この歌は、恋人が玉だったら、という単なる比喩表現ではなく、相手の魂を招き寄せ、玉に閉じ込めることを意味した魂乞いの歌ではないでしょうか。

 

ちょっと怖いと思うかもしれませんが、古代人の恋はそれだけ命がけだったのだと教えてくれます。

 

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いつか新橋で飲みましょう

最後に、万葉集を編纂した大伴家持の父親である、大伴旅人の歌を紹介したいと思います。

 

旅人は酒をほめたたえる歌を十三首作っており、その中の一つに、次のものがあります。

 

生ける者 遂にも死ぬる ものにあれば この世にある間は 楽しくをあらな(巻三、349)

 

(今生きている者だって、やがては死んでいくのだから、この世で生きている間は楽しくやっていきたいものだなあ。)

 

楽しく生きるとは、お酒を飲むということを含んでいると思います。

 

生きていてどんなに辛いことがあっても、またいつかは死んでしまっても、お酒を飲んで楽しんでいる今は、かけがえのない時間であることに変わりはない。

 

だから、お酒を飲んで楽しむことをためらってはいけない、存分に楽しめ、生ける者よ。旅人はそんな風に、お酒を飲んで、後輩たちに歌って聞かせたのかもしれません。

 

新橋のガード下で飲んでいるサラリーマンにも、こういうことを言っている人がいそうな気がします。

 

この歌はとてもシンプルで、何気なく聞き流してしまいそうですが、今の時代にも通用する、率直な人生観が語られているように思います。

まとめ

万葉集は和歌集であって物語ではないので、どこから読み始めても構いません。

 

タロットやおみくじで運勢を占うように、万葉集の好きなページを開いて、そこに書かれている和歌を、声に出して読んでみてください。

 

万葉集は、現代のせわしない時の流れを忘れさせ、あなたを古代の世界に誘ってくれるでしょう。

 


参考文献:新編日本古典文学全集『万葉集』(小学館)

 

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