一度は歌舞伎を観てみたいけど、どの演目がいいのか分からない…。歌舞伎を観たことのない人に、どの演目を誘えばいいのか分からない…。
伝統芸能鑑賞が趣味の筆者が、初心者におすすめしたい歌舞伎の演目を三つご紹介します。
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歌舞伎にはいくつかジャンルがありますが、中でも初心者が楽しめるのは舞踊物だと思います。
舞踊を中心に物語が展開するので、話も単純で理解しやすく、目で見て楽しめる作品が多いからです。
中でも『春興鏡獅子』は、獅子が長い髪を振り回すダイナミックな演出が魅力です。
正月行事の余興で、弥生という女性が踊ることになりました。
弥生が獅子頭という小さな獅子の頭を右手にはめて踊っていると、蝶が飛んできます。
すると獅子頭が弥生の意志を無視して勝手に動き出し、蝶を追い出します。弥生はどうにかそれを止めようとしますが、獅子頭に引っ張られ、花道から幕へ引き下がります。
弥生の姿が消えた舞台には、胡蝶の精が二人現れ、優雅な舞を見せてくれます。
その胡蝶を追うようにして、弥生に乗り移った獅子の精が舞台に登場します。獅子は狂ったように胡蝶を追い、長い獅子の髪を振り回します。
ケブリと呼ばれる有名な型で、髪が流れるように回る様子は、まるで風車のように美しく、そして迫力があります。拍手が鳴りやまず、観客と舞台が一体になる瞬間です。
始めは女性が出て来て優雅な踊りを披露し、後半には獅子となって荒々しい振りを見せてくれるので、歌舞伎の両方の良さを楽しめ、飽きがこない演目です。
つづいても舞踊物ですが、こちらは迫力ある鬼と武士との戦闘シーンが見られる演目です。鬼退治で有名な源頼光が、大江山の鬼神である酒呑童子を討伐する物語です。
源頼光は女をさらう酒呑童子という鬼の退治を命じられ、家来を連れて山伏姿に変身し大江山に潜入します。
家来たちはそれぞれが武勇伝を持つほどで、中にはおとぎ話の金太郎のモデルになった、坂田公時(さかたのきんとき)もいます。
頼光たちはおかっぱ姿でおちょぼ口の童子に出会い、鬼が呑むと力を失う不思議なお酒を飲ませます。
童子は喜んで酒を飲みますが、酔いがまわり、足元をふらふらさせながら、にこやかな表情で舞を披露します。その様子はなんともお茶目で、こちらも楽しい気分になってきます。
やがて童子は自分の寝床へ姿を消します。つづいて鬼にさらわれた女たちが登場し、辛い思いを語ります。
頼光は女たちに鬼を退治することを約束し、女に鬼の居場所を案内してもらいます。
後半は、鬼になった酒呑童子が登場します。子供の姿だった前半とは異なり、黒くて長い髪と、荒々しい隈取をした赤い顔になっています。
刀を持ち戦闘態勢になった頼光一行と酒呑童子が戦う場面は、前半の酒宴の場とは変わって緊迫感があります。
頼光一行は無事に酒呑童子を倒し、酒呑童子が見得を切るところで幕となります。
酒呑童子が酔っぱらっている姿の可愛らしさと、鬼になって戦う姿の荒々しさの、両方が楽しめる演目になっています。
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最後に世話物と呼ばれる、江戸庶民の生活が写実的に描かれた演目をご紹介します。
主人公の助六はやんちゃだけどモテ男。父の仇を討つため友切丸と呼ばれる宝刀を探しています。刀を人に出させて友切丸かどうか見るため、いつも町で喧嘩をけしかけていました。
また助六は吉原の花魁である揚巻と恋仲でもありました。
舞台の始まりは、揚巻が花道から花魁道中して舞台の茶屋にたどり着くところから。遊女のトップである花魁らしい衣装と、自信と品格を備えた揚巻の登場は、私たちの目を楽しませてくれます。
そこへ、白い長ひげの意休という老人がやってきます。意休は揚巻に好意を寄せていますが、つれない態度を不本意に思い、助六の悪口を言います。
しかし揚巻は品位を保ちながら反論します。そこへ花道から、下駄の音を高らかに響かせ、助六が駆けつけてきます。
助六は意休に対して、足の指に煙草をはさんで渡すという挑発をしますが、意休は無視します。このような助六のやんちゃぶりが、江戸の町人のユニークな一面を思わせます。
そこへ助六の兄が来て、友切丸を一緒に探すと言い出します。助六は優男の兄に喧嘩の仕方を教えるため、通行人に股をくぐるようふっかけます。
通行人がいろんな面白いくぐりかたをしていき、笑いを誘う場面です。私が観た時には、助六の股をファブリーズで消臭してからくぐる、という現代風のアドリブもありました。
後半は、意休が助六の前で友切丸を出し、助六がくってかかりそうになったところを、揚巻が仲裁に入り、助六がいったん引き上げるところで終わりになります。
花魁道中や、町人同士の喧嘩など、江戸の世界が存分に味わえる作品です。
初めて歌舞伎を観るなら、1時間以内で終わり、登場人物が少なく、身体表現の多いものを選ぶと楽しめるでしょう。
また紹介したもの以外なら、東京の国立劇場で開催される、学生や社会人のためのガイド付き鑑賞教室での演目もおすすめです。
まずは舞台まで足を運んでみましょう。
参考文献:漆澤その子監修『マンガでわかる歌舞伎』(誠文堂新光社 2017年)
あらすじや見どころがマンガで紹介されているので、歌舞伎鑑賞初心者にもわかりやすい一冊です。
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