能は歴史的著名人にも習われた、伝統的なお稽古事の一つです。
例えば豊臣秀吉は「明智討」という演目を作らせ、自分で演じたほど能が大好きでした。
夏目漱石も謡曲を習っていましたから、リズミカルな文体は能の影響をおおいに受けているでしょう。
さて能のお稽古と一口に言っても、選択肢はたくさんあります。
能は、主人公を演じるシテ方、脇役を演じるワキ方、音楽を演奏する囃子方(笛、小鼓、大鼓、太鼓)によって成り立っています。
家ごとに演じる役が決まっているため、まずはどの役を習いたいのかを決める必要があります。
また、茶道、華道、箏曲などと同様に流派があります。
例えばシテ方には、観世・宝生・金剛・金春・喜多の五流派があります。
華美な舞の金剛、繊細な謡の宝生、などそれぞれ特徴があるので、いろんな流派を鑑賞し、自分に合う流派を探しましょう。
今回は私が習っているシテ方のお稽古を中心に説明したいと思います。
その他の役のお稽古内容が気になる方は、能楽協会に載っていますので、ぜひ参考にしてください。
シテ方のお稽古の内容は、大きく分けて謡と仕舞の二つがあります。
謡とは、能の台詞や歌など、声楽部分のお稽古です。
謡はシテ方の台詞や歌だけではなく、ワキ方やバッグコーラスである地謡部分の台詞や歌も含め、一曲全て練習します。
歌詞や音の調子や拍が書かれた「謡本」を見ながら歌います。西洋音楽で用いるドレミのような音階はなく、音の上下や拍子の記号があるだけです。
よって、先生の謡を聞いて、音階や拍子を感覚的に習得します。
また音の大小の変化はつけないため、常にお腹から大きな声を出して歌えるのが、ストレス発散にもつながります。
仕舞は、曲の中で有名な部分を抜き出し、謡に合わせて舞うことです。3〜10分くらい舞うことになります。
かつては能が終わった後にされたため、「おしまい」の語源にもなりました。お面は付けず、道具は扇のみですが、演目によってはなぎなたを持つこともあります。
はじめは多くの演目に共通する基本的な型を身につけていくことになります。先生の後ろや横について真似しながら覚えていきます。
基本姿勢は、やや前傾、お腹に力を入れ、腰を意識して立ち、ひざを少し曲げます。
この状態で、「すり足」といって足を床につけたままの状態で進みます。はじめは歩くだけで筋肉痛になります。
慣れてくると体幹が身につき、電車の中で吊革につかまらずバランスをとって立てるようになります。
謡も仕舞も同じ型の繰り返しですが、十年習い続けた今も、不思議と飽きることはありません。それは、いまだに自分の型は完成に程遠いと思うからです。
簡潔な型ほど、基本に忠実にすること、よりよく魅せることが難しいものです。
芸の道には終わりがないと感じさせられるのが、かえって魅力だと思っています。
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最後に、気になるお稽古の費用を挙げてみましょう。
お稽古自体は、1回1時間程度で5000円前後、月2〜4回が主流です。
謡だけ、仕舞だけ、謡と仕舞両方、など内容によってもお値段が変わるようです。
お稽古道具は、足袋1000円前後、扇5000円前後が必要になります。古くなったタイミングで買い換えればよいでしょう。
謡を習う場合は謡本が必要で、一曲につき3000円程度です。進度によって差はありますが、一年で4冊前後買うことになるかと思います。
着物でお稽古するのかとよく聞かれますが、洋服の人が多いので、着物は特に準備しなくても大丈夫です。
発表会に出るなら出演費もかかります。仕舞や謡だけでしたら3〜5万円程度です。
「舞囃子」と言ってお囃子もつけて舞う場合は20万円程度、本格的に能装束をつけ、一曲能を出す場合は100万円程度かかります。
ただし稽古年数が増えたからといって、必ず舞囃子や能を出さなくても大丈夫です。
発表会で必要な道具は、着物と袴です。着物は、帯なども含めて古着で買えば2〜3万円程度で済みます。
袴は自分仕様に仕立てると10万円以上かかります。袴は先生によってはお借りすることもできますので、相談してみるといいでしょう。
能のお稽古は費用がそれなりにかかりますが、金銭的に厳しい方は、お稽古の回数や発表会の参加回数を減らすなど、先生に相談してみてもよいと思います。
私も社会人になりたての頃は、時間もお金もなかったので、お稽古の回数を少なめにしてもらいました。
先生にとっても生徒にとっても、細く長く続けていけることが大事だと思いますので、正直に相談してみるとよいでしょう。
能のお稽古は、現代人にはあまりなじみがないため習う人も少なく、費用もそれなりにかかります。
しかし時間とお金をかけるだけ、得る価値も大きいと思います。
各流派の能楽堂では、一日体験やワークショップを行っているところもあります。ぜひ一度、見学や体験だけでもしてみてはいかがでしょうか。
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